縄文人は筋肉フェチ? 腹筋よりも〇〇筋が好きだった!? イノシシ愛もすごい!
土偶や縄文土器など、重要文化財を800点以上所蔵!縄文ファンなら訪れたい、山梨県立考古博物館。2023年はめでたく開館40周年だそう。
記念イヤーと称して山梨県産だけでなく、学芸員さんが推す他県の縄文資料も沢山集めた、企画展「星降る中部高地の縄文世界」が開催された。
展示数はなんと500点を超える。想像を絶する多彩な土器たちの魅力を学芸員さんに聞いてみた。
*現在企画展は終了していますが、本文内に常設で展示されているものや所蔵博物館を★で示しています。ぜひご覧ください。
尚、聞き手はオフィスの給湯室で抹茶をたてる給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)。「給湯流」と表記させていただく。
縄文時代、土偶より前に大ブレイクしたのはなんと! イノシシの土器。
「40周年の企画展ということで、ここぞとばかり学芸員たちが好きな縄文資料をたくさん借りてきちゃいまして。当館所蔵品を展示するスペースがなくなり困りました。ハハハハハハ。」
明るい笑い声で元気に歩いてくる好青年。山梨県立考古博物館・学芸員、一之瀬敬一さんだ。
▲おもしろい顔面がついた土器も大集合!
一之瀬敬一(以下、一之瀬):企画展に置ききれなかった当館所蔵のものは、常設展に置いています。そちらもぜひ見てください。
給湯流茶道(以下、給湯流):はい!
一之瀬:では企画展のご案内をしますね。縄文時代というと、人間をモチーフにした土偶が有名かと思います。
ですが、このあたりではイノシシの顔がついた土器が流行したのですよ。見てください、これ。
▲イノシシ装飾土器/中野谷松原遺跡/縄文時代前期/群馬県安中市
給湯流:か、かわいい。
一之瀬:じつは、この子たちはとても古いのですよ。縄文前期の後半ぐらいです。その時代にとても流行して、イノシシがついた土器が大量に作られました。
給湯流:縄文人は、土偶よりもイノシシ土器づくりに夢中になったのですね。人間よりイノシシに興味があったのか!
★(尖石縄文考古館所蔵)
一之瀬:イノシシは縄文人にとって大事な食料。イノシシを土器にしてまで語り継ぎたい熱い思いがあったのかもしれません。
給湯流:免許をとってイノシシ猟をする友人がおり、新鮮なイノシシ肉と骨をダシにしたラーメンをご馳走になったことがあります。死ぬほどおいしかったです!縄文人も「イノシシ、なんでこんなにウマいのだ。土器にしたいくらい好きだ…」と恋焦がれていたのかも。
一之瀬:大流行したイノシシ装飾土器ですが、時代が経つと抽象化していきます。
★(常設展で展示)
給湯流:これもイノシシなのですか! てっきり、ただのデザインだと思っていました。
一之瀬:ちなみに土器に女性と思われる顔がついている場合があります。
★(志木市教育委員会蔵)
一之瀬:こちらの土器は、目や鼻はないですが、女性の顔だと考えられています。
▲顔面把手付深鉢形土器/原町農業高校前遺跡/縄文時代中期/山梨県北杜市★(常設展で展示)
給湯流:あれ? ちょっと待ってください。この土器、お腹から何か人間じゃないものが見えます。まさか、女性がイノシシを出産しているシーンだったりして?
一之瀬:その可能性もあるかもしれません。少なくともイノシシと人が精神的な部分で何らかの関係があったことを示しているものかと思います。土偶には、鼻がイノシシを意識してつくられたものあります。
▲土偶/一の沢遺跡/縄文時代中期/山梨県笛吹市/通称「いっちゃん」★(常設展で展示)
給湯流:縄文人が大好きだったイノシシと女性がミックスして、いっちゃんのような土偶、女神になっていったのか? 動物と人間の融合、なんだか感動します。
縄文人は腹筋よりも、背中の筋肉フェチだった? 人間の背中が描かれた土器がおもしろい。
一之瀬:人間の全身とも、カエルの全身ともいわれるものが描かれた土器もあります。これ、見てください。
▲人体装飾付深鉢形土器/大日野原遺跡/縄文時代中期/神奈川県相模原市
給湯流:うわあ! これは何ですか? マザーコンピューター的な? 顔の部分の電飾が光り「ワレワレハ、ホモサピエンスヲ シハイスル」とか言いそうですが(笑)。
一之瀬:これは人間の後頭部、背中を見せていると考える研究者もいます。
給湯流:え? 背中なのですか。
一之瀬:どうやら縄文人は、背中の筋肉に興味をもっていたようです。僧帽筋のあたりが誇張された土器もあります。
給湯流:本当だ! 背中がムキムキですね。今ですと「シックスパック」などと言って腹筋が割れていることが注目されます。でも縄文人は背中の筋肉フェチだったのですね。
一之瀬:縄文人は、普段から重いものを運んだりして背中の筋肉が発達していたのでしょう。
給湯流:なるほど。背中の僧帽筋が発達した人は、重い荷物をどんどん運んでくれる。だから尊敬されていたのかも!
一之瀬:様々なポーズをする棒人間が装飾された土器もありますよ。この土器を見てください。
▲人体装飾付深鉢形土器/一の沢遺跡/縄文時代中期/山梨県笛吹市
一之瀬:この土器の外側をぐるっと撮影すると・・・・・・。
給湯流:すごい!4コマ漫画?ボディービルダーがいろいろなポーズをしているようにも見えます。「キレてる!キレてる!」など応援の声が飛び交いそうです(笑)。動画、アニメーションのような表現にもみえますね。おもしろい!
一之瀬:縄文土器、と言ってもバリエーションが本当にたくさんある。そこが面白いところですよね。「縄文人さんよ、土器を作ることにどれだけ時間を費やしていたのだよ。」と聞いてみたいくらいです(笑)。
給湯流:まずはイノシシに興味を持ち始めた縄文人が、人間とイノシシを合体させて神様を作り上げたり、人間の背中の筋肉にまで目を向けるようになったり。縄文土器を見ることで、古代の人々の興味が変わっていく経緯が見られたようで楽しかったです。ありがとうございました!
※アイキャッチ画像…イノシシ装飾土器/中野谷松原遺跡/縄文時代前期/群馬県安中市
「星降る中部高地の縄文世界」展 山梨県立考古博物館
開館40周年記念特別展「星降る中部高地の縄文世界─黒曜石ネットワークによる物流と人流─」
現在開催中~2023年9月3日*終了
平成30年度に「星降る中部高地の縄文世界─数千年を遡る黒曜石鉱山と縄文人に出会う旅─」(長野県と共同申請)が日本遺産に認定され、山梨・長野両県における黒曜石を通した物流と交流によって培われた我が国の縄文文化を代表する遺跡や土器・土偶といった文化財が評価されてきました。
長野県では黒曜石の鉱山(八ヶ岳)を背景にムラが造られ、交流を通した造形美な土器や土偶が造られてきました。一方、山梨県では、採掘された黒曜石をブランド化し、物流の拠点として大きなムラが造られ、周辺地域の影響を受けながら独自に発達した優美な土器などが造られてきました。道具の材料としては、列島内で最大かつ良質な石材であり、黒曜石の交易ルートの発達と共に約五千年前に列島内で最も先進地域となりました。
本展では、山梨と長野県各地の日本遺産の構成文化財を比較しながら、「中部高地の縄文世界」の原像を探るとともに、物流による交流の歴史的背景について考えます。
また、会期中は特別展記念講演会をはじめ、縄文時代にちなんだものづくり体験などの関連イベントを開催いたします。ぜひ本展のご観覧と併せてご参加ください。
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◆給湯流茶道の記事