縄文土器に女性の出産シーンが描かれている!? 「縄文土器はメディアだ」アツく語る学芸員に聞いてみた
縄文土器といえば、どんなイメージをお持ちだろうか? 縄をコロコロさせて模様を作ったり、炎のような形にさせたり、デザインが華やかな印象がある。
しかし実は縄文土器、単に外側を飾り付けているだけでは無いようだ。神話や物語の登場人物やキャラを土器にのせ、ストーリーを語るものもあるという。さっそく、学芸員さんに話を聞いてみた。
尚、聞き手はオフィスの給湯室で抹茶をたてる給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)。「給湯流」と表記させていただく。
「縄文」模様の土器は実は少ない…山梨・長野の縄文土器は独自路線!?
重要文化財を多数所持する山梨県立考古博物館。現在、なんと約500点もの縄文資料を集めた展覧会を開催している。さっそく中に入ろう!
「山梨の縄文土器には『縄文』文様が少ないのですよ。ハハハ」
陽気な雰囲気で現れたナイスガイ。学芸員の一之瀬敬一さんだ。
給湯流茶道(以下、給湯流):縄文土器なのに縄文じゃない、とはどういうことでしょうか?
一之瀬敬一(以下、一之瀬):この地域、たとえば縄文時代前期の土器は粘土紐を貼り付けた「浮線文」が多いです。
更に竹を半分に割ってクククッと押した文様もありますね。
▲半裁竹管状工具 上の写真が竹の道具だ。
給湯流:ひとつひとつ、スタンプを押して爪痕を残すとは、手間がかかっている! 土器の装飾にこだわる作り手が、山梨や長野には多かったのですね。
▲甲ッ原遺跡/深鉢形土器/北杜市教育委員会所蔵
作り手の執念すら感じられる、細かい文様!これをひとつひとつ押していたと思うと胸アツだ。
縄文中期に山梨や長野に爆誕した、ストーリー性重視の縄文土器
一之瀬:中部高地では縄文中期になると、物語を共有した縄文土器がうまれます。こちらを見てください。
▲北杜市津金御所前遺跡/深鉢形土器/山梨県指定文化財/北杜市考古資料館所蔵
山梨県/おうちde土器のものがたり10「出産文土器とその意味」 (pref.yamanashi.jp)
※常設展でレプリカを展示中。北杜市考古資料館でご覧いただけます!
給湯流:すごい!土器のふちに土偶みたいな顔があります。
一之瀬:よく見てください。土器の下のほうにも顔があるのですよ。
給湯流:こ、この人は?
一之瀬:この土器は出産シーンを表現したものだと考えられています。妊娠した土偶のイメージが土器にあらわされている形です。
給湯流:えー! 赤ちゃんがお母さんの体から顔を出しているところか。
▲大深山遺跡/釣手土器/長野県川上村(本展示図録より)
一之瀬:こちらは、ランプのように使用したと思われる縄文土器です。燃料を燃やすと、上の穴からも煙が出ていたと思うのですよね。出産シーンの土器も、中で何かを煮炊きしたら煙が土偶の顔からモワモワ出たと思います。
給湯流:お祭りの夜、神話を聞きながら土器を見る。出産シーンが表現された土器の顔からスモークが出てきた! となると、マジカルな雰囲気になりそうです。当時の縄文人たちはお祭りを、土器とスモークで盛り上げていたのかー!
一之瀬:こちらは、土偶の顔と手前のヘビが対峙しています。ヘビは脱皮をして成長する再生の象徴などと考えられ、世界中で信仰の対象になっている事例が多いです。こちらも女性とヘビの神話の象徴的なシーンが、土器になっているのでしょう。
給湯流:これは土偶の口も穴が開いていますね。 ヘビの神様と出会った少女が口からシャーッと煙を出して女神に変身するとか!? 勝手に神話を妄想して盛り上がってきました。
一之瀬:ハハハ(笑)。語り継ぐべき物語を土器に表現し、共有していた。中部高地の縄文土器はメディアだったのです。
給湯流:縄文土器はメディア! なるほど。縄文土器の新たな一面がわかり、とても面白かったです。ありがとうございました。
次回の記事は、ほかの文様の土器について一之瀬さんに教えてもらう予定。乞うご期待!
「星降る中部高地の縄文世界」展では、たくさんの物語系の縄文土器が見られて感動。そして、山梨や長野でいろいろな土器が発展した理由として、黒曜石がたくさんとれた歴史や、地域をつないだネットワークについても展示されている。常設展にも縄文土器や土偶が大量にあり大満足! ぜひみなさんも訪れてください。
※アイキャッチ画像も出産を表現した土器。顔面把手付深鉢形土器/月見松遺跡/長野県宝/伊那市教育委員会所蔵
「星降る中部高地の縄文世界」展 山梨県立考古博物館
開館40周年記念特別展「星降る中部高地の縄文世界―黒曜石ネットワークによる物流と人流―」
現在開催中~2023年9月3日
https://www.pref.yamanashi.jp/kouko-hak/exhibit/2023/special.html
平成30年度に「星降る中部高地の縄文世界─数千年を遡る黒曜石鉱山と縄文人に出会う旅─」(長野県と共同申請)が日本遺産に認定され、山梨・長野両県における黒曜石を通した物流と交流によって培われた我が国の縄文文化を代表する遺跡や土器・土偶といった文化財が評価されてきました。
長野県では黒曜石の鉱山(八ヶ岳)を背景にムラが造られ、交流を通した造形美な土器や土偶が造られてきました。一方、山梨県では、採掘された黒曜石をブランド化し、物流の拠点として大きなムラが造られ、周辺地域の影響を受けながら独自に発達した優美な土器などが造られてきました。道具の材料としては、列島内で最大かつ良質な石材であり、黒曜石の交易ルートの発達と共に約五千年前に列島内で最も先進地域となりました。
本展では、山梨と長野県各地の日本遺産の構成文化財を比較しながら、「中部高地の縄文世界」の原像を探るとともに、物流による交流の歴史的背景について考えます。
また、会期中は特別展記念講演会をはじめ、縄文時代にちなんだものづくり体験などの関連イベントを開催いたします。
ぜひ本展のご観覧と併せてご参加ください。
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◆給湯流茶道の記事