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世界の記憶「上野三碑(こうずけさんぴ)」めぐりと上州ブランド二題①

2023/04/26公開
世界の記憶「上野三碑(こうずけさんぴ)」めぐりと上州ブランド二題①

2017年、群馬県高崎市に所在する国指定特別史跡「山上碑(やまのうえひ)」「多胡碑(たごひ)」「金井沢碑(かないざわひ)」(上野三碑)がユネスコ「世界の記憶(Memory of the World)」に国際登録されました。少々期を逸しましたが、春風に誘われて三碑とその周辺をめぐってみました(私事ながら実に56年ぶりの再訪)。



目次

1 近隣の文化・歴史の予備知識を仕入れに吉井郷土資料館へ

―上州ブランドその一:吉井の火打金

2 藤原不比等の名も刻まれている和銅四年(711)銘「多胡碑」と多胡碑記念館へ

3 上州ブランドその二:剣術の神髄を今に伝える馬庭念流道場

4 日本最古の辛己(巳)年(681年)銘山上碑と山上古墳

5 仏教信仰のすがたを伝える神亀三年(726年)銘金井沢碑



1 近隣の文化・歴史の予備知識を仕入れに吉井郷土資料館へ

―上州ブランドその一:吉井の火打金

上信電鉄吉井駅を挟んで南約400mに吉井郷土資料館、西北西約2.5kmに多胡碑があります。

まずは、多胡碑近辺の歴史情報を収集するために資料館へ。旧石器時代から現代まで、吉井町周辺の歴史をざっと眺めます。


  • 開館時間:9:30~16:30
  • 休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
  • 観覧料:無料


吉井郷土資料館 館前に広い駐車場

 

主役はやはり展示室内にでんと鎮座する多胡碑の実物大レプリカ。そもそも吉井駅からして駅舎内に多胡碑文の拓本を大きく掲げ、上信越道吉井インターの出入口には「多胡碑が語る歴史と文化の里 吉井」と記す多胡碑を模したモニュメントが出迎え、いたるところに「上野三碑」の旗が靡いていて、町は多胡碑一色。


吉井駅舎内に掲げられた多胡碑文拓本

最終行の「右太臣正二位藤原尊」が藤原不比等


吉井駅前に停車する「上野三碑めぐりバス」(無料)

ルート・ダイヤは本記事末尾参照

 

ところで資料館に多胡碑関係資料のほかにもう二つ気になる展示物を発見。

その一は「火打金(ひうちがね)」。解説に「吉井宿は、中山道の脇往還として賑わい、人々は道中みやげに吉井の火打金を買い求め、江戸で評判を呼ぶ。火打金は西の明珍、東の吉井と言われ……特に中野一族の製品はブランド品で、人気を博した」とある。「明珍」と並び称されるからには、吉井にも古くから鍛冶の伝統があったのでしょう。「武田信玄は以下の子孫であった近江守助直という刀鍛冶が火打金を伝え」ともありました。

 

時代劇で、「捕り物」に出向く親分の背におかみさんが「おまえさん、行っといで」と言ってカチリと打って送り出す、あの鑽火(きりび)にも使う道具。ヤマトタケルもこれを使って難を逃れたというから、相当にふるいシロモノですね。庶民に行き渡るのは江戸時代からのようです。

 

火には煮炊きや暖を取るだけでなく、厄除けや邪気払いの効用もあったと考えられていたんですね。今ではスイッチ一つで着火するので、火のありがたみを全く忘れているのですが、鑽棒・臼や火打金・火打石で苦労して火を熾そうとすると、なにやら神聖なものを生み出そうとする厳かな気持ちになるのは考え過ぎでしょうか。そういえば、マッチを擦るということもなくなって久しいですね。

一画に体験コーナーがあったので挑戦してみましたが火の気もたたず、悔しいので火打金セットを買ってきて、目下練習中です。


『火打金』体験コーナー


火打金使用法(吉井郷土資料館栞より)


火打金セット(金2,000円也)。ほかに1,500円セットもあり

 

その二は木刀と独特な防具類。解説に「馬庭念流(まにわねんりゅう)」とある。あの本間仙五郎(ほんませんごろう)の馬庭念流か?そういえば上信電鉄吉井駅の高崎駅寄り一つ前が「馬庭駅」だった。資料館の人に聞いてみると、多胡碑と鏑川を挟んだ対岸の馬庭駅近くに現在も道場があるとか、多胡碑見学のあとにちょっと寄ってみることにしました(後述上州ブランドその二参照)。



*次頁 2 藤原不比等の名も刻まれている和銅四年(711)銘「多胡碑」と多胡碑記念館へ

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